その淵で待つ
                 じっとりと見つめた先。そこで同じ黒軍の人と喋っている、礼儀正しく人に好かれる彼女。
                 私は、彼女が嫌いだ。
                
                 私が住む箱庭。私の世界。私の唯一。
                 それを、彼女は、壊そうとする。奪おうとする。それが正しい姿なのだと、まるで子供を諭す母親の笑みを浮かべながら。
                 彼女は、ひどい人だ。
                 私がどれだけのモノを失い、どれだけ傷付き、どれだけウシナうことを恐れているか知っていると言うのだ。
                 それなのに。それなのに。それなのに!
                 彼女は笑って言うのだ。手放せ、と。
                 そうでなければ未来はないのだと。
                 そんなこと知ったことではない。私はこの箱庭が、この世界が、この唯一が、何よりも大切なのだ。何をしてでも、絶対に、今度こそ奪わせないと誓ったのだ。
                 そして、あの唯一も守ってみせる。今度こそ、完璧に。
                
                 そもそも、彼女は理解していないのだ。
                 情報通で、相手の心の内を理解することに長けていると賞される彼女は、私たちのように失っていない。
                 本来の家族も、救ってくれた家族代理も、居場所も、家も、なにもかも。
                 なにもかも満たされている。なにもかも、掌から零れ落ちていない。
                 だから、あんなことを平気で言えるのだ。
                 何もかも「満たされている」ことが当たり前の世界で生きているから。ウシナうことなんて有り得ない世界で生きているから。
                 同じ状況に陥ったことがないから。
                 だから彼女は、私の、私たちの感情を理解できない。理解しているだなんて、認めない。
                
                 ああ、どうか。
                 どうか彼女が、気付きますように。
                
                
                 貴女が私の中から消したいと思っている感情は、貴女こそが原因で生み出されているという事実に。
                
                
                 どうか一日でも早く気付き。
                 そして。
                 あの日の私が立っている、絶望の中に溺れますように。
            
                    学戦二次(うらは視点)
                    #お題アンケ
                    「私と貴方はあまりに反対で」