小さな音を耳に残した ~if~
                 その世界で、呟かれた言葉が最後だった。
                
                 
                    
                 そんなことをぼんやりと思いながら、空鵝を見る。焦ってるような、表情。
                 思わず苦笑がこぼれたのは、何故なのか。
                 空鵝の口が動く。……だけど。
                「ごめん、やっぱり聞こえないわ」
                 目が見開かれ、悔しそうに歪む。そんな表情、させたいわけじゃないんだけどなあ。
                「本当なんであんたの声だけ聞こえないのか……。あの世界のせい、って訳でもないし……」
                 ――ああ、意外と辛いものだな、なんて。
                 空鵝の声が聞こえない。ただ、それだけ。そう、それだけの話。
                 次の世界に行けば、元通り聞こえるようになるかもしれない。その願いは、叶わなくて。残念、だなあ。これはもう治らない病なのかもしれない。
                 これはもう、諦めるしかないのだろうか。空鵝の声を再び聞くということは。
                 なんだか、凄く。凄く、悲しかった。
                 顔を歪める空鵝を見て、笑った。笑うしか、なかった。
                「大丈夫だって。聞こえなくても、会話っていうか意志の疎通はできるでしょ」
                 大丈夫、まだ、大丈夫。まだ、空鵝の声は覚えてる。だから、きっと、大丈夫。あの言葉を覚えているから、泣くなんてことはない。
                
                「
                    
                
                 その言葉があれば、もう二度とその声が聞こえなかったとしても、生きていける。
            
                    巡々三十題「小さな音を耳に残した」
                    
                    舞弥は愛しい人の声だけが聞こえなくなる病にかかりました。かわいそうに。きっと、とてもくるしいのでしょうね。
                    …それでも、笑うのですね。
                    #いろんな恋の病
                    診断「いろんな恋の病」より